RESEARCH
研究概要
人工知能(AI)の進化が社会に変革を与え続けています。
かねてより、機械学習やAI技術の開発を進める上で、生物の脳は原理モデルとして中核的な役割を担ってきましたが、学習効率、エネルギー効率、そして環境適応性などの点において生物の脳に迫る知能システムはいまだ存在しません。従って、生物の脳はこれからも、情報通信分野における技術革新のモデル系として重要な役割を果たし続けることに疑いの余地はなく、『人間理解に基づく超知的システムの創出』、さらにはそれを通じた『人間性豊かなコミュニケーションの実現』への期待は今後一層強まることが予想されます。
このような背景のもと、当研究室では、神経科学や数理工学などの知見を駆使して生体神経回路における情報処理過程の解明を進めるとともに、半導体工学や細胞工学などを活用した次世代の脳型情報処理システムの構築や応用に関する研究を進めています。
Theme 1
生体工学 Bioengineering
〜脳神経ネットワークの培養モデルをつくる〜
半導体デバイスの製造で培われた微細加工をを応用すると、脳神経回路の機能素子である神経細胞(ニューロン)が接着する位置や、神経突起を伸ばす方向を精密に制御することができます。私たちは、ガラス基板の表面に微細なパターンを形成したり、細胞よりも細い流路を備えたマイクロ流体デバイスを作製したりすることで、複雑な脳神経回路をシャーレ上に再構成し、その働きを調べられる培養モデルを作っています。
- 培養神経回路向け薄膜型マイクロ流体デバイスの開発 (JJAP 2020, Neural Netw. 2025)
Theme 2
脳神経科学 Neuroscience
〜脳の情報処理のしくみを解き明かす〜
大脳皮質と呼ばれる領域は、知覚や運動制御といった働きを支えていますが、この領域の回路には、密につながった神経細胞のかたまり(モジュール)が多数集まることで全体のネットワークが作られているという特徴があります。私たちの研究室では、このような特徴を模倣した神経細胞ネットワークを人工的に作るための技術を開発しています。具体的には、Theme 1で説明したデバイスの中でラットの大脳皮質神経細胞を培養することで、モジュール型配線構造を模した「人工神経細胞回路」をシャーレの中に再現しています。さらに、コンピュータを使ったデータ解析やシミュレーションと組み合わせることで、「作って確かめる」という工学的アプローチによって、生物の神経回路の特徴を一つひとつ解き明かそうとしています。
- モジュール構造型培養神経回路の人工再構成 (Sci. Adv. 2018)
- 培養神経回路における可塑性制御 (Adv. Mater. Technol. 2025)
- スパイキングニューラルネットワークを使った生体神経回路の数理モデリング (JJAP 2024, Neuromorph. Comput. Eng. 2025)
Theme 3
⽣物知能 Biological Intelligence
〜生体組織を活かした新しいコンピューティング技術〜
最近、ディープラーニングなどに比べて軽量な機械学習/AI技術として「リザバーコンピューティング」が注目されています。これは元々、リカレントニューラルネットワークと呼ばれる人工ニューラルネットワークを中間層(リザバー)として計算に活用する枠組みですが、私たちは、ラットの大脳皮質神経細胞で作った「人工神経細胞回路」がこのリザバーとして使えるかどうかを調べました。光遺伝学(光で神経細胞を操る技術)と蛍光カルシウムイメージング(神経細胞の活動を光で観察する技術)で培養神経回路の応答を記録した結果、「人工培養脳」は数百ミリ秒の短期記憶を持ち、人間の発話音声のような時系列データを分類できること、そして生物の神経回路特有の「カテゴリーをまとめて捉える」性質が計算性能を高めることが分かりました。このような実験を通じて生きた細胞が持つ特徴を理解し、工学的に応用することを目指しています。
Theme 4
⽣体模倣システム Microphysiological Systems
〜疾患モデルや動物実験代替技術への応用〜
米国食品医薬品局FDAが動物実験代替法によるデータを前臨床試験として用いることを2020年12月に許可するなど、動物実験を制限する動きが世界各地で具体的しつつあります。この流れを受けて、培養細胞を活用した生体模倣システム(MPS)の需要が高まっています。研究室独自に開発したマイクロ流体デバイス上でのヒト神経細胞の培養技術とその応用研究を発展させることで、脳神経系疾患、特にパーキンソン病や脳損傷などの疾患メカニズムの理解を深化させ、次世代の健康医療技術を支える新しいin vitroモデリング技術の創成に挑戦しています。
- 軸索損傷と自己回復のin vitroモデリング (Commun. Eng. 2026)
- 炎症性サイトカインによる神経回路機能変調のin vitroモデリング (BBRC 2024)
Keywords
- 再帰的ニューラルネットワーク
- リザバー計算
- 多変量解析
- 強化学習
- MEMS
- シミュレーション
- ⽣体適合材料
- 複雑ネットワーク
- 3Dプリンター
- 半導体プロセス
- 細胞培養
- iPS細胞
- ⽣体計測
- 学習・記憶
- 蛍光顕微鏡




